仙台家庭裁判所 事件番号不詳 判決
本籍 仙台市立町通七番地
住所 仙台市東八番丁五十八番地
簡易料理店 千代田きん 明治二十二年五月二十五日生
主文
被告人を罰金八千円に処する。
右罰金を完納することが出来ないときは金弍百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
被告人は、肩書住所に於て簡易料理店業を営んでいるものであるが、女中として雇傭した○谷○子(昭和十三年二月十三日生当時十七才五ヶ月)をして、昭和三十年七月十七日から同月二十一日頃迄の間被告人方客室(階下三畳間)に於て、氏名不詳の二十数名の男客を相手に一回(三十分)三百円、一回(一時間)六百円、午後十一時より泊り千円で同女に売淫せしめ、以て児童に淫行させたものである。
右事実は
一、○谷○子の司法警察員に対する供述調書
二、○谷○子の検察官に対する供述調書
三、参考人伊藤きいの司法巡査に対する供述調書
四、伊藤きいの検察事務官に対する供述調書
五、伊藤やすの司法警察員に対する供述調書
六、伊衆やすの検察官に対する供述調書
七、福本よし子の司法警察員に対する供述調書
八、福本よし子の検察官に対する供述調書
九、三浦みよ子の司法巡査に対する供述調書
十、三浦みよ子の検察官に対する供述調書
十一、熊谷つめの司法警察員に対する供述調書
十二、泉村長早坂平助作成の戸籍謄本
十三、昭和三十年八月十八日高橋克矩撮影の○谷○子の写真
十四、医師小野敬作成の証明書
十五、検察事務官作成の電話箋
十六、千代田きんに対する仙台市長作成の身上調書
十七、千代田きんの司法巡査に対する供述調書
十八、千代田きんの司法警察員に対する供述調書
十九、千代田きんの検察官に対する供述調書を綜合してこれを認める。
法律に照すと、被告人の判示所為は、児童福祉法第三十四条第一項第六号同法第六十条第一項に該当するから、所定刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内で被告人を罰金八千円に処し右罰金を完納できない時は刑法第十八条により金弍百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
被告人及弁護人の主張に対する判断
被告人及弁護人は判示○谷○子を雇入れの際十九才と自称し、且被告人方に同女を世話した親戚の伊藤やすが○子は十九才だというのでその言を信じ、同女が十八才未満の児童であることの認識はなかつた。尚弁護人は、○谷○子が実際生れたのは昭和十二年二月生れであるから、この潜在的意識が頭のうちにあつて十九才であるといつたのであり、これについては証拠上信ずる根拠がある。即ち本年七月二十六日附○谷○子(○子のこと)に対する宮城県立愛宕病院医師小野敬の病状診断証明書によると、同女は昭和十二年二月生と記載しあり、被告人が雇入れた当時同女が十九才であると自称する理由であり証拠である。従つて被告人に多少過失はあつても罪責はなく、本件は無罪であると主張するが、当公廷に顕出された証拠によれば、被告人が○谷○子を昭和三十年七月十七日雇入れに際しては一応その住所及年令について本人及世話人伊藤やすに尋ねたが、本籍を調査した事実その他公の証明を要求した事実はなく、却て当時世話人伊藤やすが○子の年令は十九才だといい、又同女が十九才である旨自称したことを被告人は慢然と受け入れ本籍及実家等に対して正確に訊すことを怠り、雇入れた日の即夜より同女に被告人宅階下三畳間の客室を与え、遊客一人三十分で三百円、一時間六百円、夜十一時から泊りは金千円と定めて売淫させ、その収入は四分六分に分け被告人が六分を取得したことは判示証拠により明かである。
かかる事実は児童福祉法第六十条第三項但書に免責事由である所謂「過失がないとき」に該当しない。更に○谷○子の祖母伊藤きいに対する同年七月二十三日附司法警察員巡査の参考人供述調書によれば、○谷○子の実際の出生は、昭和十二年十二月二十日頃の生れである旨の供述記才があり、戸籍謄本記才の生年月日昭和十三年二月十三日と対照すると五十余日の差異はあるが、右祖母供述の如く同年十二月二十日出生したものであつても、○谷○子が十八才未満であることの事実に毫も影響はない。又愛宕病院医師の診断証明書記才の「○谷○子昭和十二年二月生十八才」の記才は、本年七月二十六日附であり、同女が同月二十日診断を受ける際氏名を○谷○子と自称し、同病院においてはその申出で通り、氏名及年令を記才したものであることが諸般の事情により推測し得るし又昭和三十年九月二日附検察官の世話人伊藤やすに対する供述調書に○子が十九才だといつていたので、そのつもりで世話したが、数え年のことで、満では幾つになつたのかわかりませんでした旨供述記才があり、従つて被告人が○子を雇入れた当時、適確に満十八才であることを信じた証明資料とはならない。殊に被告人の昭和三十年七月二十六日附司法警察員に対する供述調書中に「私は始めて見た時幼ない顏をしていたので一寸見ると年令十六、七にしか見えませんでした。それで私は本人に年令を聞いたところ、私は今年二月で満十八才であるといつて居りました。私は本人が満十八才にならないと使われないと思い、もしかすると年令を「かくして」うそを言つて居るのではないかと思いましたが、本人が十八才になつたというので、一応雇入れた」云々と述べてあり、これによると○谷○子が却て十八才未満に目される懸念は充分持つていたことが推知されたのにかかわらず、同女につき年令を確認せず、直に雇入れその日即夜より売淫させ同女の身分確認について何等の手段を講じなかつたものであることは、証拠により明認し得るので、年令を知らざることにつき過失があつたことは明白であるから、被告人及弁護人の主張は理由がなく採用しない。
仍て主文の通り判決する。
(裁判官 三森武雄)